本日は、農育アドバイザー、網本様より、「生物多様性」についてお送り致します。
題して、「生物多様性ものがたり」
こんにちは。お盆明けから、杉戸では雨がちで、涼しい日が続いています。夏休みの宿題に親までが追われるこの頃です。
皆さんはいかがお過ごしですか?
さて、今回は・・・「生物多様性」のおはなし。
生きもの達は本当に正直です。その田んぼがどうやってお世話されているか、如実に現わします。
私達も毎年、先生をお呼びして、生きもの調査や、植物調査を重ねます。
自分たちがどういった姿勢で田んぼに向きあっているか、自覚できるからです。
今回は、私達が生きもの先生や植物先生に教えていただいたことを交えながら、今話題の「生物多様性」、生きもの世界をちょっとのぞいてみましょう!
お天気のいい日、できれば午前中!
近くの田んぼで、生きもの観察、植物(雑草)観察をしてみましょう!
(栽培中の田んぼには、むやみに入らないほうがいいので、あぜからそっと覗いてみましょう!)
なかなか近所には無いかもしれませんが、できれば農薬や除草剤を使わない田んぼが良いです。
残念ながら、薬剤を使う田んぼだと、ほとんど生きものが見つからないかもしれない・・・からです。
逆に、薬や除草剤を使わなくなって、2年もした田んぼには、たくさーーーーんの生きもの達が田んぼの周りに戻ってきます。
それはそれはパラダイス!!
まず、薬剤を使わなくなると、土が変わります。
土が変わるって、要は、微生物の数や種類と、生態系が変わるってことです・・・って、目に見えませんよね。
では、植物…田んぼのあぜや、田んぼの端っこに生えている雑草の、数や種類・・・特に種類を見て下さい。
草の種類が多いということは、それだけ根っこも種類が多いというわけで、根っこからは、その植物に独特の、酸や色んな物質が出ています。
根っこの種類が多ければ、根っこの周りをすみかにする微生物も、それぞれの物質に応じて繁殖しますから、微生物の種類も多いと推測されるわけです。
これは、どちらが鶏か卵か・・・の世界で、微生物生態系が豊かになるから、たくさんの種類の植物が繁殖するようになるのか、植物が多岐にわたるから、微生物も・・・なのか、はてさて。
ただ言えるのは、どちらが欠けても、なかなか双方ともに成り立たないのだと思います。
別に、測ったり計測できる世界では、なかなかないので、あくまでも推測なのですがね。
さて、植物の種類が多くなると、それをエサに、すみかに・・・生きる虫達の種類が必然的に多くなります。
虫達にだって、ちゃんと、お好みの植物がありますから。
あなたが名も知らないような、小さな虫の、数と種類が増えると・・・その虫達を捕食して生きる、大型昆虫の数や種類がぐっと増えてきます。
ここで、ようやく、みんなが名を知るような、トンボやカマキリ、ゲンゴロウ、クモ・・・といった虫達の名前が出てきます。
ついには、その虫達を食べる、鳥や蛇・・・といった、大型の生きものが姿を現わすようになってきます。
ここまで行くと、本当に生きものパラダイス!!
トンボやツバメはよく知っていて、生きもの豊かな田んぼの周りを乱舞しています。
それはきっと人間にとっても気持ちのいい場所。
人間だって立派な生きものなのですから!!
さて、ふらっと私がとった生きもの写真ですが・・・。
すさまじい虎カラーの蜘蛛は、黄金蜘蛛。近年なかなか見られなくなってきたようで、蜘蛛愛好家なる方々の中では、見つけるとポイントが高いそう。
ちょうど虫を糸でぐるぐる巻きにして、お食事中です。自然が豊かな場所(ようは食べ物が豊かな場所)にしか、いなくなってしまったそうです・・・って、うちの庭にたくさんいるので、自然豊かな庭ですね~と褒められる=草だらけの庭・・・と、笑った記憶があります。
稲の葉っぱの影にかっくれているのは、名前も知らない蜘蛛。この隠れっぷり、忍者だ!!
糸トンボの写真ですが、すばしっこいのでなかなかキレイにうつせないのが残念・・・!
今、うちの田んぼは糸トンボパラダイス!!うじゃうじゃと、何種類かいるようです。
糸トンボや、写真には撮れていませんが、これまたうちの田んぼにはよくいる、姫糸アメンボ・・・などは、特に薬剤に弱く、使わない田んぼだからこその、生きものでもあります。
糸トンボだけでなく、鬼ヤンマやギンヤンマ、赤とんぼ・・・近年、トンボは本当に数が減ってきてしまいました。
問題は、薬剤だけでなく、人間が自然と離れて農業をするようになってしまったことも、姿を減らしている原因だそう・・・。
田んぼ作業には、「中干し」という、栽培期間中に水を一週間ほど抜いて、田んぼを乾かす作業があるのですが、
(全国的にはわからないのですが、関東だと)近年、新米商戦に間に合うように、早い季節に田植えをして、早く稲刈り、高い値がつくあいだに売りたい・・・といった、自然にではなく、「市場に合わせた稲作」が主流になっています。
早く植えたら、中干しも当然早くなるわけで、それだと幼虫期間を田んぼの水の中で暮らすトンボの仲間は、まだ水が必要な幼虫の時期に干されてしまい、トンボになる前に死んでしまうのです。
近年トンボの数が激減しているのは、その影響も
大きいと言われています。
トンボだけでなく、稲にとっても早い田植え、早い稲刈りは、稲の本来のリズムではないと感じます。
稲は、大昔から、日本人が日本の気候に添って「自然と人工の中間=里」で栽培をしてきました。
トンボはその里で、稲とともに毎年産卵をし、羽化をし・・・稲と共に繁殖してきた生きものです。
トンボのリズムと、本来の稲のリズムは、大きな視点で・・・一緒なのではないのかな、と思うのです。
トンボだけでなく、多くの生きものと共に生きてきた稲。
昔の人は知恵として、暦だけでなく、植物や生きものを指標に、稲作をやってきました。
みなさんの集落にもまだ生えているかもしれません。日本各地に「種もみ桜」があります。
種もみ桜が咲いたら・・・種もみの準備。稲作のスタートを知らせる桜の樹。
トンボが羽化をして稲の周りを飛ぶようになったら、田んぼの中干し。
稲刈り後、霜が降りる前にお礼肥え。
どれも、現代では分析してちゃんと説明のつくことなのですが、昔の人は、感覚と観察と、言い継がれた知恵で、既に知っていました。
それって、すごく「大切」にしてきたんだろうと思うのです。
何か、言葉にならないような、季節や、自然の大きな流れを。
その中で人間も生きものも、稲作も、活かされているんだって、一人や一つでは成り立たないんだと、感覚的に知っていたし、で、それを感じる「感覚」も、大切にしてきたのだろうと。
そんな時代から進んで今、ありがたいことに機械がありますが、機械で作業を簡易化できても、そのスピリットだけは失ってはならないと思うのです。
スピリットをもって使う機械なら、本当にありがたい機械になりますが、作業が楽になるだけでなく、大切なスピリットまでもそぎ落としてしまって、人の心や自然がいない、「機械田んぼお米生産工場」になってしまうのは悲しい。
田んぼは、虫一つ、塵ひとつ落ちていない、工場ではないのですから。
「生物多様性」は、何か特定の生きものを増やすとか、単純に虫を殺さないとか、形だけの純手作業の昔に戻りたい回帰願望・・・だけではもったいない、
生きとし生きる存在を大切に思うこと、元々あった大きなリズムの中にできるだけ・・・小さな事からでいいので、そこに人間が添うこと、
そんな、「大切にする心」から作業をする事で、結果、たくさんの種類と数の生きものが、当たり前に戻ってくる・・・それを現わす言葉であってほしいと思うのです。
網本朝香
素晴らしい考え方ですね。
我々は、自分達の都合だけで利便性を求め、物事を進めて行った結果、本当に大切なものを見失って来たのではないでしょうか?
生きとし生きる存在を大切にする心。
この精神を持って、皆で「愛産物」を支えていきましょう!!